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執筆者の写真公彦 漆

小樽のカラス

海風のここち良い小樽の高台にお住まいのお客様も、今年の猛暑には参ったご様子で、先日エアコンをつけさせていただきました。


小雨の中、工事完了のご挨拶に伺いました。実は本音がありまして、奥様の淹れるコーヒーを目当てに伺いました。ご主人も、やっぱり来たかという感じで、階段を上がって二階の広いリビングに足を入れると、奥様がコーヒーを用意するカチャカチャという心地よい音が、耳に入ってきます。

 ご主人へのお礼のご挨拶もそこそこに、小樽の海をぐるっと展望できる窓際に厚かましく座り、コーヒーが出てくるのを待ちます。


 相棒の横田さんが「カラス!!」と声を上げました。窓の外、目の前を走る電線にカラスが雨に濡れながら止まっています。からすの濡れ羽色とはよく言ったもので、真っ黒とはこのことかと、じんと来ました。

 奥様が、「このカラスうちで飼っているのよ、いまは、家族ね」と。「よくないと思いながら魚の皮をやったら、とんで来るようになって、すぐにお嫁さんを連れてきたのよ、ねえお父さん」、「あらやっぱり来ましたね」、もう一羽すぐ横の電柱の頭にカラスが止まっている。すぐに旦那の電線にひょいと止まり直して、行儀よく並んでいる。

「実はこの春、子供を連れてきたのよ、人間以上に子育てが熱心なの、感心しちゃったわ」。

夫婦カラスが窓から手が届くようなところで、いつもいちゃついているというのです。


ご主人に、「一日中見てても、飽きないですね」と話しを向けると、「実はそうなんだよ、退職をして17年になるんだけど、夢がかなって最初の5年くらいは楽しかったが、だんだん暇だらけが苦痛になってきた。初志貫徹で、悠々自適を装っているが、この生き方も辛いんだよな」話がそっちのほうに行ってしまった。

 「なんと贅沢なことを、うらやましいです」など相槌を打って、コーヒ―を啜り、ふとカラスの写真を取りたいと思い、立ち上がった。

カラスは、見知らぬ人の気配を感じ、嫁さんカラスがさっととんで行ってしまった。あわてて、写真をパチリ。カラスの姿は、端っこに一羽しか映っていない。寂しい写真になりました。

雪景色になったら、カラスの写真を撮りに来ますと申し上げ、次のコーヒーの予約をさせていただき、お暇致しました。

真っ白な雪の中で、真っ黒な夫婦ガラスの写真が撮れましたら、皆様にご披露します。


さらに余談になりますが、個々の窓辺から、少し遠くの山間に函館本線に列車が走っているのが、目に飛びこんできました。NHKの鉄道写真家の番組を地で行くような風景に、一層感動しました。こんなところに住んでみたいですね。


令和5年11月10日




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