とも寿司の大将
- 公彦 漆
- 2022年11月15日
- 読了時間: 2分
仕事を終えて、帰宅すると、玄関まで甘酸っぱいいい香りがしてきた。今日の夕食は手巻寿司と分かった。孫の「ともえ」が鉢巻をして、父親とテーブルいっぱいに用意をしている。
本日は、嫁の子育て休養日で、琴似のライブハウスに出かけたという。
ドアに「とも寿司」のポスターがあり「はやい、やすい、いいえがお」と書いてある。
早速、私も350㎜のきりんの発泡酒をもって、着席した。
「大将なにが出来るんだい」というと目の前のスーパーから買ってきた、まぐろ、イカ、タコ、カツオ、エビ、ブリ、などなんでも握りますという。
「まず、タコ、サビいりで」
「いや、さび抜きです」
「いや、ワサビ漬けてよ」
「ワサビは苦手」
「それじゃあ、すし屋の大将にはなれない」
「僕は、将来は漫画家だから、大将にはならなくていい」。
それでも、冷蔵庫からチューブのワサビをだして、父親に教わって、指の先にちょっぴりつけて、サビ入りになった。
大将とよばれて、気分を良くしている。子供が握るのでシャリは半分位だが、ふんわり握った感じがたまらなくおいしい。父親もべた褒めだ。
「イカ、たのみます」
「やあ、細いのでバラバラですが」
「まあ、にぎってみてよ」
「あいよ」
「なかなかいじゃないか」
太い北海縞エビが一尾あった。「次はエビね」と指さすと、
「大きすぎて握れません」
「大将なんとか握ってよ」
「無理です」
これは勘弁してやった。
「大将、いっぱいやるかい」
「まだ飲めません」
「そうだな」
そんなことをしながら、あっという間に350㎜の缶が無くなり、もう1本といきたかったが、孫に止められるのははっきりしているので、息子の作った湯豆腐の鍋を突っついて、私の夕食が終わりました。「ご馳走様でした」
そこに嫁が満足したような表情で帰ってきました。
「いらっしゃい、何握りますか」
孫の声が家の中に響きました。


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